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生産性向上委員会1

これが中小企業の実態?これじゃ儲かるわけねえだろ


これは独自の方法で調査した中小企業の実態である。中小企業はなぜ利益が出ないのか、商品力が大手にくらべて劣るのか、給料があがらないのかがこれに集約していると思う。.中小企業とはいえ、これが日本のものづくりの実態なのである。ひるがえってみると、これが日本社会の縮図のようなものになっているのかもしれない。


商売とはなにか?働くこととはなにか?すべての人に見てもらいたいものである。とくに、政府の人間や経済学者、現場を知らないエセコンサルタント達には特に知ってもらいたい実態なのだ。
(なお、イラストはひどいものだが、この工場の生産現場について非常にわかりやすいものになっていると自負している。ご容赦願いたい)

企業の概要
これは、茨城県内にある食品製造会社である。以後T食品と呼ぶ。この会社の本社は関西にあり、この工場は「つくば工場」と呼んで、関東への足がかりとしているようだ。この工場も今はやりの「みせる工場」を実践しており、工場見学用のショールームなどの設備をそなえている。

工場自体は設立10年ほどの比較的新しく、県か市町村などの公共団体が企業を誘致する工業団地にある。なお、その工業団地が入っている企業はT食品のような中小企業が大半で、しかも業種は食品、木工、運輸などだ。当初予定していた大手企業が入らず公共団体もさぞやがっかりしたろう。会社を特定してしまうので書かないが、工業団地の名は先進技術を連想させるようなネーミング。ため息が聞こえてきそうだ。

T食品の生産しているものは「食品」。とはいえ、大手の下請けでレトルトのカレーやマーボー豆腐、炊き込みご飯の素などのレトルト食品の充てんや箱詰め、または醤油の容器への充てんである。私はこの製造工程が一番衝撃的と感じた。

従業員は派遣を含めて100人くらいだろうか。そのうち正社員は30人ぐらいで、1ラインに正社員を中心に、他は派遣をラインを回している。従業員の年齢は比較的若く、平均年齢は30代だろうか。昼勤が中心だが、夜勤もあり、2交代で対応している。常に業務に追われており、人手不足が常態化しているようだ。

以上がT食品の背景だ。

T食品の生産現場
T食品のおもな業務は、大手食品会社の商品の充てんとパッケージングである。自社でオリジナル商品の開発なども手がけているが、営業面で問題があるせいか売れてないようだ。だから大手の下請けでしのいでいるといった感じだ。

T食品の一日は小言から始まる。ゴム手袋の破片など異物混入が常態化しており、
「異物混入のお申し出があった」と、主任とよばれる40代の中年男はいう。商品は大手企業のものなのでクレームはそこにくる。したがって「今度こんなこと(異物混入)があったら、切られる」というような内容だ。「ただでさえ、赤字なのに切られたら仕事がなくなる」とは常套句で、そんなことは従業員も解りきっている。しかし、異物混入はしょっちゅうあり、現在でもそれが解決できる見込みはない。こんなことを毎日朝礼でいわれるのである。社員はさぞや朝から憂鬱であろう。

異物混入も問題だが、それよりも私はT食品の生産工程面におどろいた。炊き込みご飯の素を例にすると、
@材料の選別、加工
人参やごぼうなどの1ロット分の材料の選別した良品を加工。ささがき?炊き込みご飯用に細く切る。機械でやっているようだ
A調味料・材料のの調合
醤油、砂糖、みりんなどを調合し、1ロット用のタンクで攪拌する。@の工程の人参やごぼうの加工品は「フネ」と呼ばれる1メートル四方ほどの箱に入れる
Bパックへの充てん(A充てんライン)


ここから驚きの人海戦術が始まる。充填機という機械で充てんするのだが、調味料はAのタンクを充填機に接続して自動的にパック袋にいれる。しかし、「フネ」にいれている人参、ごぼうなどの材料はなんと人間がグラム数を普通の量りを使ってパック袋にいれているのである。なお1ロットは商品にもよるが200〜300ほどだ。
C殺菌(B殺菌ライン)

パックされた商品を装置で殺菌するのだが、それをするためには棚に商品をならべなければならない。また、殺菌後は商品が水浸しなのでその脱水処理(C脱水ライン)をしなければならない。

D袋づめ(D袋づめライン)箱詰め(E箱づめライン)
イラストは前後するが、その商品をなんと人の手でひとつひとつ商品袋や箱(これがスーパーなど商店で陳列している姿)にいれる。その後単位ごと(商店に搬入された常態。それをいくつかまとめてダンボールにつめる)に梱包して、出荷。なお、梱包ライン(F梱包・出荷)はあるが、機械化されているのはテープ貼りとベルトどめのみで、箱詰めは人間が数量を「1,2、、3、、」などと数えて入れているのである。


と大まかな工程は以上である。お気づきだと思うが、この工場で生産した商品には随分「人の手」が触れていないだろうか。Bの工程からはもう炊き込みご飯としては完成しており、その味には関係はない。それにもかかわらずいったい何人の人間がかかわっているのか?
Bで3人C並べ作業で3人、脱水で3〜6人Dで5、6人ほどだ。商品はスーパーなどでは100円台で売っていることが多い。それなのに人の手でやる作業が実に多いのである。
充てん以降出荷まで、味には関係ないところにコストをかけてどうするのか。この手の商品のまずい理由がわかった気がする。箱詰めなんか、完全に「手動」だから。
そもそも、こんなにコストがかかっていては儲けなどまるで望めまい。

また、この工場のオペレーションにも問題がある。たとえばCの工程が終われば全員が別の作業場に移動し、Dの作業にかかる。こんなことは大手企業ではどこもやっていない。生産効率が悪くなるからだ。場所の移動時間はわずかでも違う作業にかかるにはどうしても時間のロスがでてしまう。また、機械の再設定などが必要な場合、他の人員は手があくことになる。それらの人間は掃除(のフリ)などのするほかない。この工場の生産性は絶対によくはない。

でてきた影響
こうなると、この工場にはさまざまな影響が出ることになる。
つねに人手不足に苛まれ、休みもとれない。利益も出ないので給料も上がらない、それだから従業員はつねにイライラしている。朝礼が小言から始まるのはそれが原因だ。またそんな工場だから従業員の定着率は悪い。経験の少ない者ばかりになり、工場全体に怒号がとぶことになる。人間関係も悪くなり、チームワークもとれない。その悪循環が続くことになる。こんな工場誰が入りたいと思うだろうか。

T食品の人間の質
この工場、やはり極端に定着率が悪いのだが、原因は残った従業員にもあるらしい。人間の質に問題があるのだ。もともと食品製造業は製造業の中でも人気がない。利益が出にくく、作業もきつく、出入りにいちいちエアシャワーをくぐらなければならないとか検便が義務付けられているなど、面倒なルールがあるからだ。「将来、食品工場で働きたい」などと夢を語る人間はほぼいまい。こういう職場には、言っては悪いが入社してくる人間もそれなりで、人格面もよくはないことが多い。

それに加え、T食品のような工場になってしまっては、マシな人材はすぐにでていき、悪い人材ばかりが残ることになる。したがって小言朝礼の中年男が管理職に抜擢されるなどの弊害がでることになる。そうなると、あとに続くものも同じような人材になってしまう。あちこちで怒鳴り声がひびき、それが当たり前のことで、社風となってしまったりしている。新入社員すら目をむいて怒鳴っていることがあるらしい。「みせる工場」を実践している工場だというのに。ようするにこの工場は質の悪い人間を造る工場でもあったわけだ。人間の質が悪いのに品質など上がるわけあるまい。そもそもこんな工場の現場、人材ではうまいものなど作れるわけがないのだ。

人事の失敗
この工場には他にも気になることがある。小言朝礼の中年男の他にも、当然中間管理職がいるのだが、その人数が多すぎる気がするのだ。この規模の工場にしては作業員や検査員を除いて机に座っている人間が実に多い。20人以上はいるだろうか。これらの人間がの主な仕事は出荷承認とか生産管理などだが、経営者や工場長はこれら中間管理職が8時間という定時内にどんなことをしているのか把握しているのか疑問である。

なぜそう思ったのかといえば、この工場に実際にいたのだが、主任と呼ばれるある中年男(なぜか全員中年男、小言朝礼中年男とは別)だが、朝6時前に出勤し、帰り平均9時、遅いときには12時以降に帰っている者がいた。いうなれば、「誰よりも早く出勤して誰よりも遅く帰る中間管理職」だ。こう言うと、この人物は「労働者の鏡」と言えるかもしれない。管理職なので何時間工場にいても残業代がつくことはないからだ。

問題なのはこの人物は1日平均15時間程、何をしていたのかである。他の管理職はそんな15時間も工場にいないのだ。なぜ、その上の管理職や工場長は「なんでお前だけそんなに時間がかかるの?」とか問い詰めなかったのだろうか、と思う。実際にそれほどの時間がかかるのであれば他の管理職に仕事を振り分けたり、中間管理職が多い嫌いがあるので熟慮が必要ではあるが、もう一人(できれば若者に)同じ管理職の登用をしたりすればよいものを。この男が能力がなくてこんなに時間がかかってしまうのであれば、この人物を降格させれたりすればよいのである。そもそも、工場長などが問題にするまえに、他の管理職はなにをしていたのか?
どうもこの工場では管理職同士のコミュニケーションもとれていないらしい。

もしかするとこの「労働者の鏡」は業績をあげられないので「せめて、労働時間はだれよりもまけない」などと考えていたのかもしれない。いままで日本企業では「残業時間の長い者イコール頑張り屋さん」という社風をとっているところが少なくないからだ。しかし、管理職がこんなに長時間(なにをしているかわからないが)工場にいる頑張り屋さんでは、一般の社員はさぞや早く帰りずらかろうと思う。ゆえに一般の社員も作業効率や生産性を考えることを軽視するようになるのだ。そしてこの工場のような現場になってしまう。

前述したが、この生産現場でなにがそんなに気に入らないのか、新入社員までも目をむいて怒鳴っていても、その上の管理職はなにも咎めない。自分らもそうやって育てられてきたのだろう。そういう管理職の登用が根本的な間違いだったのである。ひょっとすると、なにも考えず年数が多い者から管理職に登用してきたのだろう。人事制度の崩壊だ。この工場は人事面で完全に失敗していたのである。


こんな工場にした下手人はいったいだれなのか?いうまでもなく、社長や工場長だろう。だが、朝礼で小言をいう中間管理職や「労働者の鏡」の中年男はこの工場をよくするためになにかしてきたのだろうか。またその下の一般従業員はなんの権限もないが、何年間も本当になにもできなかったのか。私はそう思ってしまうのだ。

T食品のような工場でも利益がでて儲かっていればまだよい。しかし、そうはならないのは当然であり必然なのである。
「利益の出せない企業の存在価値はない」となにかの会計の本で読んだことがあるが、言い得て妙である。いつまでも利益のでない会社の仕事など続ける価値はあるのだろうか。

大手の下請けで生産している商品には「T食品」の名はでない。下請けだと、特に食品だと利益はあまり望めない。給料もボーナスのアップも望めまい。せめて仕事への充実感はあっただろうか?この工場で長年働いて、定年を迎えた社員はなにを思うのだろう。仕事はたのしかったか?工場での人生は満足だったか?自分はこの工場の社員でなくてよかったとしみじみ思う。


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